離島への夏の旅行で撮った集合写真に、見知らぬ顔が一つ混じっていた。それを調べていくうち、同じ記録が過去にも残されていることに気づいた。
これを書いているのは、あの旅行から三ヶ月が経った今だ。
あのときのことを誰かに話したくて、でも話せる相手がいなくて、結局こうしてブログに打ち込んでいる。読んでいる人がいるかどうかもわからないけれど、記録として残しておきたかった。大学二年の夏の話だ。
きっかけは、ゼミの先輩が声をかけてくれたことだった。「島に行かないか」と言われたのは確か六月の終わりで、メンバーは先輩を含めて五人、全員が同じ文化人類学のゼミに所属していた。目的地は、フェリーで片道二時間ほどかかる小さな離島で、先輩が卒論の取材を兼ねて行きたがっていた場所だった。島に古い民宿が一軒あって、夏の間だけ宿泊客を受け入れているという話だった。
私は離島に行ったことがなかったし、旅行自体も久しぶりだったから、わりと気軽な気持ちで参加した。八月の中旬、三泊四日の予定だった。
フェリーに乗ったのは、朝の六時過ぎだった。夏の早朝とはいえ、港は風が強くて肌寒いくらいだった。乗客は私たちのほかに地元の人らしき老人が数人と、荷物を積んだ業者の男性が一人、あとは観光客らしいカップルが一組いた。フェリー自体も古くて、甲板の手すりに触れると錆の粉が手につくような船だった。先輩は「これが趣あっていい」と言って写真を撮っていた。
島に着くと、港のすぐ近くに民宿はあった。建物は木造の二階建てで、外壁はずいぶん色褪せていたけれど、手入れはされているようだった。宿のおかみさんは六十代くらいの小柄な女性で、私たちを見て「今年も若い人が来てくれた」と言った。「今年も」という言い方が少し引っかかったけれど、観光客が毎年来る宿なんだから当然だと思って気にしなかった。
三日間は島を歩き回ったり、浜で過ごしたり、先輩の取材に付き合ったりして過ごした。島は思ったよりずっと小さくて、一時間あれば一周できるくらいの広さだった。集落は港の周辺に固まっていて、島の内側には雑木林と、使われなくなった畑跡が広がっていた。住民は百人に満たないくらいで、顔を合わせると会釈をしてくれるような穏やかな場所だった。
旅行の最終日、帰りのフェリーに乗る前に、民宿の前で記念写真を撮ることになった。おかみさんに頼んで、五人が並んでシャッターを押してもらった。おかみさんのスマートフォンは古い機種だったけれど、写真はきれいに撮れていた。その場でグループトークに送ってもらって、私たちはフェリーに乗り込んだ。
異変に気づいたのは、家に帰ってから数日後のことだった。
あの旅行の写真を整理していて、民宿の前で撮った集合写真をもう一度よく見た。五人で並んでいる写真だ。左から順に、先輩、田中くん、私、小宮さん、松本くん。全員の顔もはっきり写っていたし、特におかしいところはなかった。
ただ、一つだけ気になることがあった。
私の隣、小宮さんとの間に、何か白っぽいものが写っていた。最初は光の加減かと思った。夏の晴天の下で撮った写真だったから、反射があったとしてもおかしくない。でも、スマートフォンの画面で拡大してみると、それは光ではなかった。
人の、顔だった。
ぼんやりとしていて、はっきり見えるわけではない。でも、目と鼻と口の位置がわかるくらいには、それは顔の形をしていた。大人か子どもかもわからない。性別もわからない。ただ、私と小宮さんの間に、もう一人分の顔がある。
五人で写っているはずの写真に、六人目がいた。
気味が悪くて、でも見間違いかもしれないと思って、小宮さんにLINEで聞いてみた。「集合写真、何か変なところない?」と送ったら、しばらくして「私もそれ思ってた」と返ってきた。「あなたと私の間に、誰かいない?」という言葉が続いた。
見間違いではなかった。
翌日、先輩にも聞いてみた。先輩は最初「気のせいじゃないか」という反応だったが、拡大した画像を送ったら「……これは確かに変だな」と返ってきた。五人で撮ったことは全員が覚えている。おかみさんに頼んだことも、横一列に並んだことも。でも写真には、六つ目の顔がある。
その後、田中くんと松本くんにも確認した。田中くんは「ホラーだなあ」と笑っていたが、松本くんは少し間を置いてから「俺、もう一回写真を見てみる」と言った。しばらくして、松本くんから「顔、一つじゃないと思う」というメッセージが来た。私と小宮さんの間に白い顔があることは全員が確認していたけれど、松本くんは「端の方にも、もう一つある気がする」と言った。
画像をもう一度、慎重に見た。
確かに、松本くんの隣、つまり写真の右端の外側ぎりぎりに、もう一つ、白っぽいぼやけた輪郭があった。最初は建物の壁の模様だと思っていた。でも言われてみれば、それも顔の形に見えた。
五人で撮ったはずの写真に、七つの顔があった。
私はそれから、あの宿のことをネットで調べ始めた。島の名前と宿の名前で検索すると、いくつかの旅行ブログがヒットした。ほとんどは普通の旅行記で、島の景色や食事の感想が書かれていた。私はそれらを一件ずつ開いていった。
四件目か五件目のブログに、見覚えのある写真があった。
民宿の前で撮った集合写真だった。宿の外観は私たちが泊まった頃と同じで、看板も同じ位置にある。写真には若者が四人並んでいた。ブログの記事は三年前のもので、大学生のグループが旅行した記録のようだった。ブログの書き手は「楽しい旅でした」と書いていて、特に怖い話は何もなかった。
ただ、その写真に、私は視線を止めた。
四人で撮ったと本文には書いてある。でも写真の中に、四人の顔とは別に、白っぽいぼやけた何かが写っていた。位置は、ちょうど並んでいる人物と人物の間だった。
私は画面を閉じて、少し考えた。それからもう一度開いて、写真を拡大した。
三年前の写真にも、余分な顔があった。
その後も調べ続けた。同じ宿で検索すると、さらに古いブログが一件見つかった。六年前の記事で、今度は三人グループの旅行記だった。写真は数枚あって、その中に宿の前での集合写真もあった。
三人で並んだ写真に、四つ目の何かが写っていた。
写真の位置は少しずつ違う。右端のこともあれば、人の間に挟まれているように見えることもある。でも、全部の写真に共通しているのは、撮った人数より多い顔がある、ということだった。
私はおかみさんが言った言葉を思い出した。「今年も若い人が来てくれた」。毎年、あの宿を訪れるグループがいて、毎年、集合写真を撮っていく。そしてその写真には、毎年、余分な何かが写っている。
一つ、気になることがある。
私が最初に写真を見たとき、顔は一つだった。次に見たとき、松本くんに言われて、端にもう一つあることに気づいた。
今日、また写真を開いてみた。
三つ、あった。
私と小宮さんの間に一つ、松本くんの隣に一つ、そして先輩のさらに外側に、もう一つ。最初から三つあったのかもしれない。私が気づいていなかっただけかもしれない。
でも、最初に見たときは、一つしかなかったような気がする。
今夜もう一度、写真を見ようと思う。
数を、数えてみる。
—
これを書き終えて、一度スマートフォンを置いた。画面が消えて、暗くなった。その暗い画面に、自分の顔が映った。
背景の、あたりまえの暗がりの中に、もう一つ何かが見えた気がして、私は画面を裏返した。
気のせいだと思いたい。
でも、あの宿の取り壊しが決まったというニュースを、昨日、島の地方紙のウェブサイトで見た。老朽化のため、今年の冬に解体されるそうだ。おかみさんが高齢で、後継者もいないのだという。長年の営業に幕を下ろす、という短い記事だった。
閉まる前に、また行くべきだろうか。
行ってはいけない気がする。
でも、なぜかそう思ってしまう。あの宿の前に立って、もう一度写真を撮ったら、今度は何人、写るだろうか。
考えるのをやめようと思う。
ただ、記録しておきたかった。写真は今もスマートフォンの中に入っている。削除する気にも、なれないでいる。

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