同窓会の写真に、知らない顔がいた

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高校卒業から十五年後の同窓会で撮った集合写真に、誰も知らない男が写っていた。しかしアルバムを掘り返すと、その男はずっとそこにいた。

同窓会の話をしようと思う。

といっても、青春の思い出とか、久しぶりに会った旧友と盛り上がったとか、そういう話じゃない。どちらかといえば、あの夜のことは今でも思い出さないようにしている。でも最近、当時の写真が出てきてしまって、それを見てからというもの、考えずにいられなくなった。整理するために書く、という感じだ。

俺は三十三歳で、今は県境に近い地方の中核都市でひとり暮らしをしている。生まれ育った町からは電車で二時間ほど離れていて、実家に帰るのは正月くらいのものだ。高校の同窓会の案内が届いたのは二年前の春、卒業から十五年の節目ということで、幹事の佐倉という男が音頭を取ってくれたらしかった。メッセージアプリのグループに招待が来て、正直気乗りはしなかったが、付き合い程度の気持ちで参加することにした。

会場は地元の居酒屋で、集まったのは二十数人。高校時代に同じクラスだった面々が、三十代に差し掛かってすっかりくたびれた顔でずらりと並んでいた。久々に見ると懐かしいよりも「ああ、みんな老けたな」という感想が先に来て、俺自身も似たようなものだろうと思った。

二時間ほど飲んで、お開きの前に集合写真を撮ることになった。スマートフォンを三脚代わりのグラスに立て掛けて、セルフタイマーで撮ったやつと、幹事の佐倉がまとめて何枚かシャッターを切ったやつの、計五枚か六枚。佐倉がその場で「あとでグループに送ります」と言って、翌日にはデータが届いた。

俺はその写真をさらっと確認して、特に保存もせず、しばらく忘れていた。それだけのことだった。

変だと気づいたのは、三か月ほど経ってからのことだ。

同窓会のグループに誰かが「写真プリントした人いる?」と書き込んで、何人かがスタンプを押したり「俺もしたい」と返事したりしていた。それを眺めながら、なんとなく俺もスマートフォンのアルバムを開いた。写真は問題なく残っていた。二十数人が横に並んで、居酒屋の壁に貼られたメニューが背景になっている、よくある飲み会の一枚だ。

見慣れた顔がいくつかある。佐倉、成瀬、田島、それから右端に俺。その隣に、見覚えのない男がいた。

最初は「あれ、この人誰だっけ」くらいの感覚だった。三十代の顔なんて変わるものだし、俺だって同級生全員の顔を細部まで覚えているわけじゃない。でも何度見ても、その男の顔に記憶が紐づかない。年齢的には俺たちと同じくらい、背は高くもなく低くもなく、地味な紺色のシャツを着ている。笑ってはいなかった。周囲が笑顔を作っている中、その男だけが正面を見つめていた。口を結んで、表情のない顔で。

グループで聞いてみようかと思ったが、なんとなく躊躇した。もし知ってる奴がいれば「何言ってんだ、○○じゃないか」と笑われるだけで、それはそれで恥ずかしい。だから最初は黙っていた。

かわりに、写真を拡大して細かく見た。その男の手元を見ると、グラスを持っていない。宴席の集合写真で、飲み物も持たずに立っているのは少し奇妙だった。ほかの全員はビールなり酎ハイなり、何かしら手に持っていたからだ。もう一点、気になったことがあった。その男の周囲だけ、なんとなく隙間があった。人が密着して並んでいる中で、その男の両隣だけ、かすかに間が空いているように見えた。写真の解像度の問題かもしれないし、ただ俺の思い込みかもしれない。でも気になりだすと止まらなかった。

数日後、思い切って佐倉に個別でメッセージを送った。「写真に写ってる人で、右端から二番目の男って誰かわかる?」と。写真のトリミングも一緒に送った。

返信は翌朝に来た。「誰だろ、わからん。俺の知り合いじゃないと思う。お前の隣にいたんだったら知ってる人じゃないの」という内容だった。

俺の隣。それがまた引っかかった。あの夜、俺の隣に立っていたのは誰だったか。記憶をたぐると、成瀬だと思っていた。でも写真で成瀬の位置を確認すると、成瀬は俺から三人ほど離れたところにいた。では俺の隣には誰がいたのか。写真の中の男以外、思い当たらない。けれどあの夜、その男と話した記憶がない。隣に立っていた感触もない。

気味が悪くなって、グループのほうにも「この人誰か知ってる?」と写真を投稿してみた。

十人近くが返信をくれたが、全員「知らない」「うちのクラスじゃない」「どこかの店の人じゃないの」というものばかりだった。ひとり、田島だけが「でもこれ俺たちの同窓会の写真だよな、外部の人が交じるとしたら変じゃね」と書いていた。俺も同じことを思っていた。

それから少しして、田島から個別にメッセージが届いた。「ちょっと気になって、高校のアルバム引っ張り出して見てたんだけど」という書き出しで。

田島が言うには、高校三年生のとき俺たちがいた3組のクラス写真に、見覚えのない顔があるというのだ。学年全体の集合写真ではなく、クラス単位で撮ったやつ。そこに、同窓会の写真の男と「なんか似てる気がする男」が写っているという。

俺は自分のアルバムを探した。実家に置いてきたはずだったが、引っ越しのときに持ってきていたらしく、押し入れの奥から出てきた。3組の集合写真を開いて、端から順に顔を見ていった。

いた。

似ているとかいうレベルじゃなかった。同じ男だった。高校生の顔立ちで、制服を着て、最前列でもなく後列でもなく、中段の端に立っている。そして、笑っていない。周囲のクラスメイトが照れ笑いや作り笑いをしている中、その男だけが正面を見つめていた。同じ表情だった。同窓会の写真と、まったく同じ顔で。

俺は自分のクラスの全員の顔と名前を、完全には覚えていないとはいえ、大まかには把握しているつもりだった。でも、その男の顔に名前が出てこない。席が近かったとか、授業で話したとか、そういう記憶が一切ない。いないはずの場所に、ずっとそこにいたかのように立っている。

田島に「見つけた」と送ると、田島も「やっぱりそうか」と返してきた。田島は続けて、「俺、二年のときの写真も見たんだけど」と言ってきた。

送られてきた画像を開くと、そこにも男がいた。二年生の写真にも、同じ男が写っている。制服を着て、中段の端に、笑わずに立っている。

俺はそこで少し冷静になろうとした。高校三年間、同じクラスだったことはないけれど、別のクラスで重なっていた可能性はある。学年が同じなら、廊下や体育の授業で顔を見ることはあるはずだ。記憶にないだけで、実在した同級生だろうという考え方もできる。でも田島は、「こいつ、俺たちと同じクラスになったことって一度もなかったよな」と言った。俺もそう思った。なぜかそう確信した。

そして、田島がもうひとつ送ってきた画像があった。入学直後に撮ったらしい一年生のときの写真で、俺はこれを見た瞬間に声が出た。

男がいた。一年生のときの写真にも。しかもその写真では、俺のすぐ隣に立っていた。

俺と並んで、笑わずに、こちらを向いている。入学したての、まだ幼さの残る俺の隣に、三十代と変わらない顔つきで立っている。当時の制服を着て。

田島は「なあ、こいつって誰なんだろうな」とだけ送ってきた。俺は返事ができなかった。

その後、田島とそれ以上この話はしていない。田島の側から話題を振ってこなくなったし、俺も振りたくなかった。グループの流れも普通の近況報告に戻っていって、誰も例の男の話をしなくなった。

俺はあれから、写真を見るたびに思う。あいつは誰だったのか。高校三年間、ずっと写真の隅にいたのに、俺は一度も気づかなかった。同窓会の夜、俺の隣に立っていたはずなのに、顔も声も記憶にない。

先日、実家の母に電話した際に、さりげなく聞いてみた。「高校のとき、うちのクラスに知らない子が写ってたりしない?」と。母はしばらく間を置いてから、「何言ってるの、急に」と笑った。そして「そういえば入学式の写真あるわよ」と言い出して、「あなたの隣に写ってる男の子、ずっと誰だろうと思ってたのよね」と続けた。

俺は「ああ、そうなんだ」とだけ答えて、それ以上聞けなかった。

今、あの集合写真をもう一度開いてみた。二十数人が横に並んでいる。右端から二番目、俺の隣に、男がいる。笑っていない。こちらを見ている。

ただそれだけなのに、どうしても目をそらせないでいる。

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