【洒落怖】峠の配達で、数が合わなかった話

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峠の山道を走る配達員が、停電の夜に立ち寄った山荘で気づいた「数の合わなさ」。それは荷物の数だけではなかった。

これを書いておかないと、たぶんおれは誰にも言わないまま終わると思う。

配達の仕事を始めて、今年でちょうど四年になる。担当エリアは県境の山沿いで、一日に走る距離は平均で百五十キロを超える。片側一車線の国道、集落と集落をつなぐ細い農道、そして峠を越えるたびに電波が切れる山道。そういうルートを毎日繰り返しているうちに、土地勘というか、感覚みたいなものがついてくる。あの峠の手前で気温が下がる。あのカーブを曲がると霧が出やすい。そういう小さな知識の積み重ねで、おれはあの道を走っていた。

だから、あの夜のことも、最初はそういう「慣れた道のいつもと少し違う感じ」として処理しようとしていた。

去年の秋のことだ。確か十月の後半で、日が落ちるのが早くなってきた頃だった。その日は午後から配達が押していて、峠を越えるのがいつもより一時間ほど遅くなった。日没ぎりぎりで頂上付近を通過して、下りに差し掛かったところで、突然カーナビの画面が落ちた。同時に、ダッシュボードの時計も消えた。車のヘッドライトは生きていたが、それ以外の電装系がまるごと落ちたような状態になった。

エンジンは動いている。でも、計器類の半分が死んでいる。

おれは路肩に車を止めて、しばらくエンジンをかけたまま待った。再起動をかけてみたり、ヒューズボックスを確認したりしたが、原因はわからなかった。電話も、電波が一本も立っていない。あの峠の、ちょうど電波が完全に死ぬ区間だった。

仕方なく、そのまま下り始めた。速度計が動いていないのは怖かったが、感覚でゆっくり走るしかない。下りのカーブをいくつか曲がったところで、道の脇に灯りが見えた。

山荘だった。

正確には、貸別荘のような建物が三棟、斜面に並んでいる施設だった。そこだけ電気がついていて、駐車場に何台か車が止まっている。おれはそこに入って、電話を借りようと思った。

駐車場に車を止めて、一番手前の建物に近づいた。玄関の脇に「管理棟」と書かれた小さな看板がある。ドアをノックして開けると、中にいた初老の男性が振り向いた。

「すみません、車のトラブルで。電話を借りてもいいですか」

男性は特に警戒する様子もなく、「どうぞ」と言って受付のカウンターにある固定電話を指した。おれは会社に連絡して、状況を伝えた。今夜中の修理は難しいので、明朝に対応することになった。

電話を切ると、男性が「今夜は泊まっていきますか」と言った。空き部屋があると言う。おれは少し迷ったが、峠の上に車を放置するわけにもいかないので、お願いすることにした。

「全部で何棟あるんですか」とおれは聞いた。

「三棟です。今日はほぼ満室で、あなたで最後の一部屋になりますよ」と男性は言った。

その言葉を、おれはそのとき特に気に留めなかった。

案内されたのは一番奥の棟の、二階の部屋だった。外から見えたのと同じく、電気はついている。でも、管理棟の外に出た瞬間、また気づいたことがあった。

峠の区間とは違って、ここには電波が少し入っていた。でも、スマートフォンの時計表示がおかしかった。画面の右上の時計が「–:–」と表示されていた。圏外でもなく、かといって時刻が表示されてもいない。充電は残っている。再起動してみたが、直らなかった。

管理棟に戻って男性に聞いてみると、「ここは時々そういうことがある。電波の入り方が特殊な場所なので」と、やはり特に驚いた様子もなく答えた。

部屋に入って、おれは荷台に残っていた今日の未配達分の伝票を確認した。習慣みたいなもので、翌日どこに何を持っていくか確認しておかないと気が済まない性分なのだ。

その夜の未配達は、二件分。伝票が二枚あった。

ところが、荷台を確認すると、荷物が三つある。

おれは首をかしげた。伝票は二枚。でも荷物は三つ。一つ分の伝票がない。

伝票入れをもう一度確認した。二枚しかない。念のため助手席のシートの下や、ダッシュボードの引き出しも見た。どこにもない。それに、三つ目の荷物には送り先の住所を示すラベルが何も貼られていなかった。ただの段ボール箱で、ガムテープで封がされているだけだった。

おれは、自分が積み込み時に誰かの荷物を間違えて載せてしまったのかと思った。でもそれなら、本来その荷物を載せるべき車の担当者から連絡が来るはずだ。それもない。とにかく、翌朝に会社で確認すればいい話だと思って、その日は眠ることにした。

夜中に、目が覚めた。

時間がわからない。スマートフォンの時計はまだ「–:–」のままだ。外は暗くて、完全に夜中だということしかわからない。

目が覚めた原因は、足音だった。廊下を誰かが歩いている音がする。この棟には部屋が何室あるのか、おれには確認していなかったが、他の宿泊客だろうと思った。トイレにでも行くのだろう。

足音は廊下を行ったり来たりして、しばらくしてから止んだ。

翌朝、食事をとるために管理棟に行くと、昨夜の男性がコーヒーを淹れていた。他の宿泊客の姿はない。

「他のお客さんは?」と聞くと、「みなさん、もう出発されましたよ」という答えだった。

そのとき、ふとおれは思い出した。昨夜、この施設に着いたとき、駐車場に車が止まっていた。何台だったか。ちゃんと数えていなかった。

「何組泊まっていたんですか」とおれは聞いた。

「三棟で、全部で六組でしたね。あなたを含めて」

六組。全部で三棟。つまり、一棟に平均二組。

「おれが泊まった棟には、何組いたんですか」

「あの棟は三部屋ありまして、昨夜は……あなたを含めて三組でした」

「三部屋」。

おれは昨夜、部屋に入るときに廊下を通ったことを思い出した。廊下には、ドアが三つあった。おれの部屋を含めて、三つ。つまり、昨夜のあの棟には、おれ以外に二組が泊まっていた。

廊下の足音はそのどちらかだったのだろう。それはわかる。

でも、昨夜おれが廊下を通ったとき、おれの部屋は一番奥だった。廊下のドアは三つ。手前から一番目、二番目、三番目。おれの部屋は三番目、一番奥。

廊下の長さと、ドアの間隔を思い出してみる。

妙だった。

三つのドアが並んでいたのに、廊下を歩いた距離が、三部屋分には足りない気がしていた。体感として、二部屋分くらいの距離しか歩いていないのに、三番目のドアに着いていた。建物の外から見ると、もう少し廊下が長くてもおかしくない外観だった。

それとも、おれの感覚がおかしかったのだろうか。夜中に初めて入った建物で、暗い廊下を歩いて、距離感がくるっていただけかもしれない。

男性に礼を言って、おれは車に戻った。

エンジンをかけると、電装系が復旧していた。カーナビも、ダッシュボードの時計も正常に動いている。スマートフォンも、時計が表示されるようになっていた。

荷台を確認した。昨夜と同じように、荷物が三つある。

ラベルのない段ボール箱も、ある。

おれはその箱を手に取った。軽い。何も入っていないかのように軽かった。でも、振ると、かすかに音がした。カラカラ、という、固いものが転がるような音。

結局、おれはその箱を会社に持ち帰った。上司に確認してもらったが、うちの伝票とは無関係の荷物で、どこからどういう経路で混入したのかは最後までわからなかった。中身を確認しようとしたが、ガムテープが異様に固くて、カッターを使ってようやく開けた。

入っていたのは、古い鍵だった。

ごく普通の、建物の鍵のような形をした鍵が、一本だけ。どこの鍵かはわからない。

上司は首をかしげて、「拾得物として届けておくか」と言って引き取った。おれもそれ以上は気にしないようにした。

ただ、一つだけ、今もひっかかっていることがある。

あの朝、管理棟を出るとき、おれは駐車場を見た。他の宿泊客はもう出発したと言っていたが、車の台数を確認しなかった。おれが着いたとき、駐車場に車が何台あったか、暗くてちゃんと見ていなかった。

だから結局、あの夜に何組が泊まっていたのか、おれには確かめようがない。

六組、と男性は言った。

おれを含めて、六組。

でも、今になって考えると、おれは翌朝、管理棟でその男性と二人きりだった。他の宿泊客を一人も見ていない。

それだけならまだいい。

あの山荘に着いた夜、おれが管理棟のドアを開けたとき、男性は「振り向いた」。

入ってきたおれの顔を見て、「最後の一部屋」と言った。

でも、おれは電話も鳴らしていないし、予約もしていない。いきなり飛び込みで入ったのに、なぜ男性はおれが来ることを知っていたように「最後の一部屋」と言えたのだろう。

そのことに気づいたのは、もう家に帰ってからだった。

書き留めておかないと、たぶんおれは誰にも言わないまま終わると思う。

これを書いておかないと。

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