そのフェリーに、乗ってはいけない

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お盆の離島行きフェリーで、乗客の人数がどうしても合わなかった。数を数えるたびに、ひとり多い。

これは去年の夏、お盆の時期に起きた話だ。

自分でも、どこまでが現実の出来事でどこからがおかしくなっていたのか、いまだにはっきりわからない。だから記録として残しておくことにした。読んで気分が悪くなる人は、ここでやめてほしい。

俺は会社員で、去年の夏季休暇に友人のカワカミと二人で、ある離島へ渡ることにした。島の名前は伏せる。九州の西側にある、人口数百人の小さな島だ。名所というほどのものはなく、透明度の高い海と、丘の上に立つ灯台があるだけの島で、カワカミが「誰もいないところでゆっくりしたい」と言い出したのがきっかけだった。

フェリーの出港は、本土側の港から午後二時。お盆の時期だったが、観光地でもないその島行きの便は、混雑とは無縁だろうと思っていた。

港に着いたのは一時半ごろだった。チケットを購入し、乗船待ちのベンチに座っていると、同じように島へ渡るらしい人たちが少しずつ集まってきた。家族連れ、老夫婦、一人旅らしい若い女性。島の出身者が帰省するシーズンだったのだろう。思っていたより人がいた。

乗船が始まる直前、俺はなんとなく頭の中で人数を数えた。自分とカワカミを含めて、十二人。小さなフェリーの待合スペースに、十二人の乗客が並んでいた。なんとなく数えただけで、それ以上の意味はなかった。そのときは。

フェリーは定刻通りに出た。船内は古く、座席は固定式のベンチが並ぶ簡素な造りで、甲板に出ることもできた。移動時間は約五十分。俺たちは缶コーヒーを飲みながら、甲板で海を眺めていた。

三十分ほどして、俺はなんとなく船内の乗客を数えた。暇だったし、特に理由はない。窓越しに室内を覗くと、座っている人の頭が見えた。甲板に出ているのは俺とカワカミだけだったから、室内に残りの全員がいるはずだった。数えると、十一人。待合で数えた十二人から、自分たちを引けば十人のはずだ。一人多い。

数え間違いだと思った。もう一度数えた。やはり十一人。

「カワカミ、乗客って何人だったっけ」

と聞くと、カワカミは「さあ、十人くらい?」と言った。俺は「俺ら含めて十二人数えたんだけど」と返したが、カワカミは「そんなにいたか?」と首をひねるだけだった。

気にしなければよかった。それだけの話だったはずだ。

島に着いて、俺たちは民宿に向かった。事前に予約していた宿で、島の中心部にある古い木造の建物だった。部屋は二階に二室並んでいて、俺たちはそれぞれ一室ずつ使うことになっていた。

チェックインのとき、宿のおばさんが「今夜はお二人だけですよ」と言った。他に客はいないということだった。お盆なのに、とカワカミが冗談めかして笑った。おばさんは笑わなかった。

夕食は一階の食堂で出してもらった。地魚の煮付けと、素朴な副菜が並んだ。食べながら、俺はふと廊下の方を見た。食堂の引き戸が半分開いていて、廊下の突き当たりが薄暗く見えていた。その暗がりの中に、なんとなく人の輪郭のようなものが見えた気がして、目を凝らした。

何もいなかった。廊下の端に古い衝立が置いてあって、それが人影に見えたのだと気づいた。

「どうした」とカワカミが言った。

「なんか見えた気がして」と答えると、「お盆だからな」と笑った。その言い方が少し妙なトーンで、俺は苦笑いしながら飯を食い続けた。

翌日、俺たちは島を歩いた。集落を抜けると、丘へ続く細い道が伸びていた。灯台を目指すルートで、地図によると徒歩三十分ほどだという。道の両脇に草が生い茂り、風が吹くたびにざわざわと揺れた。

途中、石段がある場所で足を止めた。丘の斜面に刻まれた石段で、上へ続いているが、途中から草に覆われて見えなくなっていた。段数を無意識に数えた。二十三段。なぜ数えたのか自分でもわからない。前の日から、なんとなく数を数えてしまうくせがついていた。

灯台に着いて、少し休んでから戻る途中、またその石段の前を通った。今度も数えた。二十四段。

俺は立ち止まって、もう一度最初から数えた。二十三段だった。

草の陰になっていて見落とした段があったのだろう、と思った。それ以外に説明がつかなかった。カワカミに言うかどうか迷って、やめた。変なやつだと思われたくなかった。

その夜、寝つけなかった。

部屋の窓から外が見えた。島の夜は本土より濃い暗さがあって、集落の灯りがぽつぽつと浮かぶだけだった。しばらくそれを眺めていると、宿の玄関先に人が立っているのが見えた。外灯の明かりに照らされた人影で、こちらに背を向けて、ただじっと立っていた。

宿のおばさんか、と思った。でも、体型が違った。背が高く、細身で、お盆の夜中に外に突っ立っている理由が思い浮かばなかった。俺は目を凝らした。人影は動かなかった。五分ほど見ていたが、その間、微動だにしなかった。

怖くなって布団をかぶった。朝になって確認しようと思ったが、朝起きて外を見たときにはもう誰もいなかった。

帰りのフェリーは翌日の午後一時発だった。乗船口に集まった人を、俺はまた数えた。今度は意識的に数えた。自分とカワカミを含めて、十一人。

行きと同じ条件ではないからおかしくはない。島で乗り降りする人が違えば、人数は変わる。でも、なぜか胸の中でひっかかるものがあった。

フェリーが動き出して、三十分が過ぎたころ、俺は船内の乗客を数えた。窓越しに、甲板に出ながら頭を数えた。自分とカワカミは甲板にいる。室内に九人いれば合う。数えると、十人だった。

一人多い。

俺は甲板から室内に入り、一人ずつ確認しながら歩いた。家族連れ、老夫婦、一人旅の男性。全員の顔を確認して、端から端まで歩いた。最後にもう一度数えると、九人だった。

俺は廊下の隅に立って、頭の中を整理しようとした。窓の外に本土の港が見えてきていた。もうすぐ着く。

そのとき、後ろから肩を叩かれた。

「何数えてたんだよ」とカワカミが笑いながら言った。甲板から降りてきたのだった。

「人数」と答えると、カワカミは「俺ら入れて十一人だろ」と言った。

「そうだよな」と俺は言った。

でも、カワカミはさっきまで甲板にいたはずだった。甲板に出ているのは俺だけで、室内に残りの全員がいる、という前提で数えていた。だとすれば、室内に九人、甲板に俺一人で十人。カワカミを足せば十一人で合う。

合う、はずだった。

でも俺が甲板から数えたとき、甲板には自分しかいなかった。カワカミはいなかった。室内も、俺が歩いて確認したとき、カワカミはいなかった。

あのとき、カワカミはどこにいたのか。

港に着いて、家に帰って、それ以来カワカミとは何度か連絡を取り合っている。普通に仕事の話や飯の話をしている。違和感があるといえばある。でも、それが何なのか、俺にはうまく言葉にできない。

ただ、ひとつだけ変だと思うことがある。

あの島に行ったとき、カワカミは「誰もいないところでゆっくりしたい」と言い出した。俺はその誘いを受けて、一緒に行った。

でも最近、当時のやり取りをメッセージアプリで遡って確認したら、あの旅行を提案したのは俺の方だった。

俺が先に「島へ行こう」と書いて、カワカミが「いいね」と返していた。

どちらの記憶が正しいのか、今もわからない。

わからないままにしておくのが、今は正解な気がしている。

ちなみに、フェリーには往復とも乗客名簿の控えが発行される。帰ってから気になって、問い合わせて送ってもらった復路の控えには、乗客数が書いてあった。

自分とカワカミを含めて、十二名とあった。

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