毎朝、同じ時間に届く荷物の話

引っ越し直後から始まった、毎朝同じ時刻の宅配。送り主も中身も、何もかもが少しずつ「ずれて」いた。

去年の春のことだ。転職を機に、県境の町の外れにある古いアパートへ引っ越した。築三十年以上は経っているらしい二階建ての木造で、外壁は雨染みが目立ち、廊下の板はどこを踏んでもギィと鳴いた。家賃が相場よりかなり安かったのと、通勤に便利な場所だったのが決め手で、内見のときに感じた薄暗さも、まあ一人暮らしなら慣れるだろうと気にしないことにした。

引っ越しを終えてから三日後の朝、玄関のチャイムが鳴った。時計を見ると、七時四十分。出勤前にコーヒーを飲んでいた俺は、荷物なんか頼んでいないがなと思いながらドアを開けた。制服姿の配達員が、小さな段ボール箱を差し出してくる。

「ご本人様ですか」と確認されたので名前を答えると、端末にサインを求められた。受け取ってドアを閉め、送り状を見た。送り主の欄には名前の代わりに、「401」とだけ書いてあった。

住所の欄はこのアパートの住所で、俺の部屋番号もあっている。でも送り主が「401」というのは意味がわからなかった。このアパートは二階建てで、部屋番号は101から204まで、全部で八部屋しかない。四百番台の部屋なんてどこにもない。

箱の中身は、みかんだった。四個か五個、ビニール袋に無造作に入れられていた。特に包装もなく、メモの類いもない。腐っているわけでもない、普通のみかん。首をひねりながらも、捨てるのも忍びなくて食べた。それなりに甘かった。

次の日の朝、七時四十分にまたチャイムが鳴った。

同じ配達員だった。同じサイズの段ボール箱。送り状の送り主欄にはまた「401」とある。開けると今度は、りんごが三個入っていた。

その次の日も、七時四十分。段ボール。送り主「401」。中身は今度は梨だった。

俺は三日目にようやく、配達会社に電話をかけた。荷物番号を伝えて、送り主の情報を教えてほしいと頼むと、オペレーターは少し待たせてから「送り主様からはお名前のご登録がなく、識別番号のみのご登録となっております」と答えた。識別番号というのは何かと聞くと、「法人様や個人事業主様がご利用になる、お客様管理用の番号でございます」とのことで、それ以上の情報は個人情報保護の観点から教えられないと言われた。

誤配ではないか、と聞いた。「受取人様のお名前とご住所で配達しておりますので、誤配ではないかと思われます」という答えが返ってきた。

俺の名前と住所で、毎朝果物が届いている。送り主は「401」。このアパートには存在しない部屋番号。

以来、俺は毎朝七時四十分に目を覚ますようになった。意識してではなく、自然に。七時三十分ごろに目が覚めて、ぼんやりしているうちに必ずチャイムが鳴る。配達員は毎回同じ人で、端末を差し出すときに小さく会釈をする以外は何も言わない。送り状の送り主は常に「401」で、中身はいつも果物だった。ぶどう、柿、いちご、バナナ。季節感はばらばらで、特に順番もない。

一ヶ月ほど経ったころ、俺は管理会社に電話した。このアパートには以前、四百番台の部屋番号が存在したのかを聞いた。担当者はしばらく沈黙したあと、「そのような番号はございません。こちらのアパートは一〇一から二〇四までの全八室でございます」と答えた。

「昔は違った番号の付け方をしていたということはないですか」と食い下がると、「建設当初からの図面がありますので、変更はないと思いますが」と言われた。念のため確認してもらうことにして、数日後に折り返しがあり、「やはりそのような番号は確認できません」と言われた。

荷物は翌日も届いた。七時四十分。送り主「401」。中身はスモモだった。

こうなると俺には一つ、どうしても確かめたいことができた。配達員を追いかけて、どこから来たのかを見ることだ。荷物を受け取ったあと、俺はサンダル履きのまま玄関を出て、廊下から駐車場のほうを眺めた。いつもの配達員が軽バンに乗り込もうとしているのが見えた。俺は会釈をされる前に声をかけた。

「すみません、少しよろしいですか」

配達員は振り向いた。三十代くらいの、どこにでもいそうな男だった。

「この荷物なんですが、毎日届いていて。送り主が誰なのか、わかりますか」

男は端末を操作して、「こちらの情報では送り主様のお名前は登録されておらず、識別番号のみとなっております」と答えた。会社に電話したときとまったく同じ言葉だった。まるで読み上げているみたいに。

「識別番号って、401ってことですよね」

「そうなります」

「このアパートに、401号室はないんですけど」と俺が言うと、配達員はほんの少しの間、こちらを見た。そして「それは私どもではわかりかねます」とだけ言い、軽バンに乗り込んで走り去った。

その日の夜、俺は届いた荷物のスモモを食べながら、部屋中を改めて見回した。築三十年の、六畳一間。引っ越してきて一ヶ月、特に変わったことは果物の件以外にない。霊的なものを感じるとか、物音がするとか、そういうことは何もない。ただ毎朝七時四十分に、誰かが果物を送ってくる。

俺には高齢の親戚も、いたずらをしそうな知人も思い当たらなかった。だいたい、毎日何十個という荷物を扱う中でこの件だけ手書き伝票でもなく電子管理されているならば、そこには必ず誰かが登録した情報があるはずだ。それが「401」という番号しかない、ということが俺にはうまく飲み込めなかった。

転機は梅雨の時期に来た。ある朝、チャイムより先に目が覚めてしまった。六時すぎ。俺はなんとなく部屋の外に出た。理由はわからない。ただ、廊下の空気が少し違うような気がして。

廊下の突き当たりに、俺の部屋の斜め向かいに、階段がある。その踊り場のあたりに、見慣れない段ボール箱が置いてあった。

近づいて確認した。宅配便の伝票が貼ってある。送り先は、このアパートの住所と俺の部屋番号。そして送り主の欄には、「401」。

翌朝七時四十分には、いつもどおりチャイムが鳴った。同じ配達員が同じ段ボールを持っていた。俺は昨夜のことを話した。廊下に先に置いてあったと。配達員は少し眉を動かして、「私どもでは夜間の配達はしておりません」と言った。

「じゃあ、昨夜あそこに置いてあったのは誰が置いたんですか」

「わかりかねます」

俺はその箱の中身を確認した。白桃が二個、入っていた。昨夜廊下で見た箱と、今配達員が持ってきた箱。同じサイズ、同じ伝票の様式、送り主はどちらも「401」。

廊下の箱はもうなかった。

俺は考えた。夜中に誰かがこのアパートに入り込み、段ボールを廊下に置いた。そして翌朝、配達会社が同じ送り主名で同じ宛先に荷物を届けてきた。どちらも「401」から。

おかしいのは、廊下の箱には伝票の追跡番号があったのに、俺はそれを書き留めていなかったことだ。確認すればよかった。配達会社に問い合わせれば、少なくともその番号が実在するかどうかはわかる。後悔した。

それから二週間、俺は毎晩廊下を確認するようになった。深夜に何度も起き出しては廊下を見た。段ボールが置かれていたのは、結局その一度きりだった。荷物は毎朝変わらず届き続けた。

そして先週、俺はあることに気づいた。

送り状を一枚一枚、捨てずに取っておいていたのだが、ある日それを並べて眺めていた。どれも同じ様式で、同じ「401」の記載。ただ、よく見ると、部屋番号の書き方がわずかに違う。俺の部屋番号は「102」なのだが、最初の一ヶ月分は正しく「102」と書いてある。ところが梅雨の時期から届いた伝票には、「102」の右上に小さく、薄く、「→401」と書き添えてあった。

最初は印刷のかすれかと思った。でも十枚以上、すべて同じ位置に、同じ筆跡で「→401」とある。

転送、という意味なのか。

102から401へ、ではなく。401から102へ届いているものに、わざわざ「102→401」と書き添えてある。

俺の部屋に届いているのではなく、俺の部屋を経由して、どこかへ届けられるはずの荷物が毎朝来ている。そういうことなのかと思いかけたところで、俺はやめた。考えすぎるとよくない気がして。

今日も七時四十分に荷物が届いた。中身はキウイだった。食べた。甘くはなかった。

引っ越そうかとは、まだ決めていない。

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