配達物の宛名が変わっていた話

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ある日届いた荷物の宛名に、見知らぬ名前が印字されていた。それは最初、単純な誤配だと思っていた。

最初に気づいたのは、去年の秋ごろのことだ。

ちょうど仕事が立て込んでいた時期で、ネットで頼んだ日用品が届くのをぼんやりと待っていた。インターホンが鳴り、玄関を開けると配達員が段ボール箱を差し出した。サインをして受け取り、部屋に戻ってから何気なく伝票を眺めた。住所は正しい。マンション名も、部屋番号も。ただ、名前だけが違った。

「ヤマダ カズノリ」

そう印字されていた。

俺の名前は佐伯といって、カズノリとは似ても似つかない。山田でもない。一瞬、同じ建物の別の部屋に届けるつもりだったものを間違えたのかと思ったが、部屋番号は確かに俺の部屋番号だった。住所も一字一句合っていた。配達業者のアプリで注文履歴を確認すると、宛名には俺の名前できちんと登録されている。なのに伝票には別の名前があった。

まあ、システムの不具合かなにかだろう、と思った。荷物の中身は頼んだものと同じだったし、特に困ったわけでもなかったから、そのまま伝票をゴミ箱に捨てて忘れることにした。

次に届いたのは、それから二週間ほど経った頃だった。

今度は別のショッピングサイトで頼んだ本が届いた。薄い封筒で、郵便受けに無理やり押し込まれていた。取り出すと、やはり住所と部屋番号は合っている。名前を見た。

「ヤマダ カズノリ」

同じ名前だった。

さすがにそれは変だと思った。別々の業者が、別々の荷物に、同じ誤った名前を印字するというのは確率的にありえない。俺はしばらくその封筒を眺めてから、ショッピングサイトに問い合わせのメッセージを送った。「宛名の表記に誤りがあった」と書いたが、返ってきた返信には「ご登録いただいている名前は佐伯様のまま変更はございません。お手数ですが伝票の画像をお送りいただけますか」とあった。それで封筒を探したが、もう捨ててしまった後だった。

業者側の記録には、ちゃんと俺の名前がある。でも実際に届く伝票には別の名前がある。それだけの話で、誰に相談しても「印刷ミスじゃないの」で終わりそうだったから、俺はそれ以上追いかけなかった。

ただ、気になって自分のマンションの住民名簿を確認しようとした。このマンションは古い物件で、管理人室に手書きの名簿ファイルが置いてある。管理人のおばさんに頼んで見せてもらったが、俺の部屋番号には「佐伯」としか書かれていなかった。ヤマダという名前は、建物全体を見渡しても一件も載っていなかった。

それから少しの間、何も起きなかった。

次の配達が来たのは十一月の初めだった。仕事で使う消耗品をまとめて頼んだ、それなりに重い荷物だった。配達員が台車で持ってきて、俺が受け取り票にサインしようとしたそのとき、宛名の欄が目に入った。

「ヤマダ カズノリ」

もう驚きより、嫌な感じが先に来た。配達員に「この名前、誰ですか」と聞いてしまった。配達員は少し怪訝そうな顔をして「え、ここに届けるよう指示が来てますけど」と言った。「宛名はシステムに出てきた通りに打ち出しているだけなので」と付け加えて、特に気にする様子もなく去っていった。

その夜、俺は初めて「ヤマダ カズノリ」という名前をネットで検索した。よくある名前だから当然ヒットはするが、俺の住む町の周辺で何か特別な情報が出てくるわけでもなかった。少し範囲を広げて、このマンションの旧住民だとか、この建物の歴史だとか、そういうことを調べてみようとしたが、築三十年近い古い物件だから記録らしいものは出てこなかった。

管理人のおばさんに再度聞いてみることにした。俺の部屋に以前、ヤマダという人が住んでいなかったかと。

おばさんはしばらく首をひねって「さあ、あたしがここ来たのが十五年前だから、それより前はわからないけど」と言った。それから「でも、あの部屋、何度か空き家期間があったのよね。入ってはすぐ出て行くっていうか」と続けた。俺は「事故物件とかですか」と聞いた。おばさんは否定も肯定もしないで「ただ、長続きする人が少ない部屋なのよね」とだけ言った。

そのやり取りが少し引っかかったまま、年を越した。

年明けてすぐの一月、俺は引越しを考え始めていた。仕事の都合もあったし、単純にその部屋が手狭になってきていたというのもある。荷物の宛名のことはほとんど忘れかけていた。

荷物の宛名のことを、完全に忘れかけていた頃だった。

二月の初めに、ひとつの荷物が届いた。俺は何も注文していなかった。にもかかわらず、インターホンが鳴り、ドアを開けると配達員が小さな箱を持って立っていた。「こちらで合ってますか」と言われ、住所を確認されたので「合ってます」と答えてしまった。受け取り票を渡され、サインしようとして止まった。

宛名の欄に「ヤマダ カズノリ」とある。そして差出人の欄には、俺の名前が書かれていた。

「佐伯 ○○」

俺自身の名前が、差出人として印字されていた。

俺は配達員に「これ、俺が送ったことになってるんですか」と聞いた。配達員は受け取り票を覗き込んで「そうですね、発送元がこちらの住所になってますね」と言った。「でもまあ、サインいただければ」とも言った。

俺はサインをした。何でサインしてしまったのか、今でも説明できない。

部屋に戻って箱を開けると、中には薄い紙が一枚入っていた。ただの白い紙で、何も書かれていない。それだけだった。

俺はその紙をしばらく眺めてから、裏返した。裏にも何も書かれていなかった。ただ、指でなぞると、うっすらと凹凸があった。何かを書いた痕のように感じたが、光にかざしても文字は読み取れなかった。

その夜、俺は管理人のおばさんに電話をした。こんな時間にすみません、と謝ってから、以前この部屋にヤマダカズノリという人が住んでいなかったか、もう少し調べられないかと頼んだ。おばさんは少し間を置いてから「昔の書類がどこかにあったかもしれないから、明日見てみる」と言ってくれた。

翌日、おばさんから連絡が来た。「昔の入居記録があった」という。

「あなたの部屋、二十年以上前に山田和典って人が住んでたみたいよ」

ヤマダ カズノリ。

「で、その人、出て行った記録がないのよね」とおばさんは続けた。「転出届も、退去届も、何にもなくて。ある日からぱたっと来なくなったみたいで、荷物がそのままだったから処分したって書いてあるわ」

「どういうことですか、それ」

「わからないけど。昔はそういうことも、あったんじゃないかしらねえ」

おばさんはそれ以上のことは教えてくれなかった。

俺はその後、引越しを二ヶ月早めた。

新しい部屋に移ってから、初めて届いた荷物の伝票を確認した。宛名は「佐伯 ○○」と、ちゃんと俺の名前になっていた。

それ以来、名前が変わって届いた荷物はない。

ただ、引越しをした直後、段ボールを解体していたときに、あの白い紙が出てきた。捨てたと思っていたのに、いつの間にか荷物に紛れていた。

光に透かしてみると、やっぱり何も読めなかった。

ただ今回は、紙の端に、小さく折り目がついていることに気がついた。ドッグイヤーのような折り方で、誰かが「ここ」に印をつけたような、そういう折り目だった。

俺はその折り目を広げて、また閉じた。

何度見ても、紙には何も書かれていなかった。

その紙はまだ、新しい部屋の引き出しの中にある。捨てられないでいる理由を、うまく説明できないまま、今もそのままにしている。

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