結婚式のアルバムに映っていた人

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これはフィクションです。友人の結婚式から数週間後、届いたアルバムに、式に来ていたはずのない人物が何枚も写り込んでいた。誰も彼女のことを覚えていないのに、写真の中の彼女は確かにそこにいる。

友人のハルカが結婚したのは、もう三年ほど前のことになる。

式は県境の小さな町にある古いホテルで行われた。山の麓に建てられた、創業から七十年以上が経つという建物で、ロビーには蔓草のような模様が彫り込まれた木製の柱が立ち並んでいた。お世辞にも華やかとは言えない場所だったけれど、ハルカの祖父母が若い頃に結婚披露宴を開いたホテルだというから、彼女にとっては特別な意味があったのだろう。

招待客は三十人ほどで、こぢんまりした式だった。私はハルカの高校時代の友人として、テーブルの端のほうに座っていた。同じテーブルには、同じく高校の同級生だったヨシノとミカの二人。久しぶりに顔を合わせて、料理を食べながら他愛のない話をして、その日はそのまま散会になった。

特に変わったことはなかった。はずだった。

アルバムが届いたのは、式から約三週間後のことだ。ハルカから「送ったよ」とメッセージが来て、翌日の夕方に大きな封筒が届いた。表紙に白い花の箔押しがされた、薄いアルバムだった。

私はソファに座って、ページをめくり始めた。

挙式の場面、親族との記念撮影、食事の場面。どのページも柔らかい光で撮られていて、ハルカが本当に綺麗だった。私もヨシノもミカも何枚か写っていて、思わず笑ってしまうような表情の写真もあった。

四ページ目を開いたとき、私は手を止めた。

披露宴の会場全体を斜め上から撮った、いわゆる引きの一枚だった。テーブルが五つ並んでいて、招待客がそれぞれの席に座っている。写真の右端、窓際のテーブルのいちばん奥の席に、一人の女性が写っていた。

淡い色のワンピースを着た、三十代くらいに見える女性だった。周りの席の人たちはみなカメラのほうを向いていたり、談笑していたりしているのに、その女性だけが正面を向いたまま、静かに俯いていた。

見覚えがなかった。

最初は、親族席の人かなと思った。招待客全員を知っているわけじゃないし、遠縁の誰かかもしれない。でも改めてその席の位置を確認すると、窓際のテーブルは親族席ではなく、新郎側の職場関係の人たちが座っていた席のはずだった。

気になりながらも、そのままページをめくった。

五ページ目、六ページ目と進むうちに、私はまたその女性を見つけた。今度はケーキカットの場面を後方から撮った写真で、ハルカと新郎のテツヤさんがナイフを構えているすぐ後ろ、人垣の中にその女性が混じっていた。周りの人たちが笑ったり拍手しながら立っているなかで、彼女だけが両手をまっすぐ体の横に垂らして、表情もよく見えないまま立っていた。

次のページにも、いた。

乾杯の場面を収めた写真だった。招待客がグラスを持ち上げているなか、テーブルの向こう側、ちょうど私の斜め後方にあたる場所に、その女性が座っていた。グラスを持っていなかった。

私はアルバムを閉じて、ハルカにメッセージを送った。

「届いたよ、ありがとう。ところで一つ聞いていい?窓際のテーブルの奥の席に座ってた女の人、誰だっけ?」

返信は翌朝来た。

「えっ、誰のこと?あそこってテツヤのいとこ夫婦の席だったけど、奥の席は当日キャンセルが出て空席になってたよ」

私はもう一度アルバムを開いた。

四ページ目の引きの写真。窓際のテーブルの奥の席。確かに女性が座っている。見間違いじゃない。

もう一度メッセージを送った。

「写真に写ってるんだけど。四ページ目の引きの写真、右端の窓際のテーブル。見てもらえる?」

しばらく既読がつかなかった。三十分ほどして、返信が来た。

「見たけど、誰も写ってないよ。その席、椅子があるだけだと思う」

スマートフォンに手が届いたので、カメラでアルバムのページを撮影して、画像をそのまま送った。

返信が来るまで、今度は一時間以上かかった。

「……なんか、写ってる。でも誰かわからない。テツヤに聞いてみる」

そこから先、ハルカからの連絡は途絶えた。翌日も、その翌日も。既読はついていたので、無視されているわけではないと思ったけれど、返事は来なかった。

四日後に、ようやくメッセージが届いた。

「テツヤも、フォトグラファーさんも、誰かわからないって。カメラマンさんに確認したら、式の日に窓際のテーブルを撮ったとき、そこは確かに空席だったって言ってた。でも確かに写ってる。もしかして光の加減で何かが映り込んだのかもしれないね」

私はその返信を読んで、すぐには返事ができなかった。

その夜、もう一度アルバムをはじめから丁寧に見直した。今度は一枚ずつ、端から端まで確認した。全部で三十二枚の写真が収められていた。

女性が写り込んでいたのは、合計で七枚あった。

ケーキカットの場面、乾杯の場面、引きの写真、そして私が最初に気づかなかった写真にも。花束贈呈の場面を引きで撮ったページに、会場の隅にぼんやりと立っている。余興のゲームで招待客が集まっている場面では、人垣の外側に一人でいる。そして最後のほうのページ、閉会後に招待客が帰り支度をしているシーンでは、出口に近い場所に立って、カメラのほうを向いていた。

そのページだけ、彼女の顔がはっきりと写っていた。

三十代くらいの、目鼻立ちのはっきりした女性だった。表情と呼べるものがほとんどなかった。笑ってもいない、泣いてもいない。ただまっすぐに、こちらを見ていた。

私はページを閉じた。

翌日、ヨシノとミカにも連絡を取った。アルバムの画像を送って、知っている人かどうか聞いた。

二人とも、知らないと答えた。

ヨシノは「なんか怖いね」と言って、それ以上は触れなかった。ミカだけが少し違う反応をした。

「ねえ、これってさ」と彼女は言った。「こっちのページにも写ってるよね」

ミカが指摘したのは、私がまだ気づいていなかった一枚だった。式の始まる前、会場の準備が整った直後に撮られたと思しき写真で、まだ招待客が誰もいない、空のテーブルが並んだ会場全体が写っていた。

窓際のテーブルの奥の席。

既に、座っていた。

その写真のことを、私はハルカには伝えなかった。何を伝えたらいいのかわからなかったし、何より、あの女性が誰なのかという問いに答えが出ないまま、これ以上掘り返すのが怖かった。

アルバムは今も手元にある。

時々、誰かにその話をすると、「心霊写真じゃないの」で終わる。それはたぶん正しくて、でも何かが引っかかったまま、私の中で終わっていない。

引っかかっているのは、写真のことじゃない。

あの式の日、私はトイレに立ったとき、廊下の突き当たりに人が立っているのを見た。その時は気にも留めなかった。

でも今になって思う。

淡い色のワンピースを着た、こちらに背を向けて立っていた、あの人は。

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